印刷の「版ズレ」とは、複数の色を重ねて印刷する際に、それぞれの色の位置が本来重なるべき場所からずれてしまう現象です。
印刷業界では「見当ズレ」や「レジストレーションずれ」と呼ばれることもあります。
一般的なフルカラーのオフセット印刷では、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)の4色をそれぞれ分版し、順番に重ねて印刷します。
このとき、どれか1色でもわずかに位置がずれると、文字や写真の輪郭に別の色が見えたり、隣り合う色の間に白い隙間ができたりすることがあります。
こうした現象が版ズレです。
版ズレと見当ズレの違い
基本的には同じ現象を指す
「版ズレ」と「見当ズレ」は、一般的にはほぼ同じ意味で使われます。
印刷における「見当」とは、複数の色や版の位置を正しく合わせることです。
そのため、CMYKなど複数の色版が適切な位置に重なっている状態を「見当が合っている」といい、位置がずれている状態を「見当がずれている」と表現します。
一般向けに説明する場合は、
「版ズレ(見当ズレ)とは、複数の色版の位置がずれてしまう現象」
と理解するとわかりやすいでしょう。
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版ズレはなぜ起こるのか
版ズレは、単純に印刷機の精度だけが原因で起こるわけではありません。
印刷機、用紙、温湿度、紙送り、版の取り付けなど、さまざまな要因が関係します。
印刷機の機械的な誤差
オフセット印刷では、複数の印刷ユニットを通過しながら各色を順番に印刷します。
印刷機は高い精度で調整されていますが、物理的な機械である以上、完全に誤差をゼロにすることは困難です。
シリンダーや版、紙送りなどの位置関係にわずかな誤差が生じると、色同士の位置がずれる原因になります。
紙が伸縮するため
紙は温度や湿度の影響を受けて伸び縮みします。
湿気を吸収すると寸法が変化し、乾燥すると縮むことがあります。
印刷中に紙の寸法がわずかに変化すれば、先に印刷した色と後から印刷する色の位置関係が変わり、版ズレにつながる可能性があります。
特に紙は繊維方向によって伸縮の程度が異なるため、印刷条件や用紙管理も重要です。
紙送りの位置がずれるため
印刷機では、紙を毎回ほぼ同じ位置に送る必要があります。
しかし、給紙や搬送時の紙の動き、くわえ位置などにわずかな変化が生じると、印刷位置に影響する場合があります。
版の取り付けや製版工程の影響
オフセット印刷では、各色の版を印刷機へ正確に取り付ける必要があります。
版の取り付け位置に誤差があったり、製版工程で位置関係に問題が生じたりすると、印刷結果にもズレが現れる可能性があります。
版ズレが起こるとどのように見えるのか
版ズレの見え方は、文字、写真、図形などによって異なります。
文字の輪郭に色が見える
版ズレで特にわかりやすいのが、文字の周囲にシアンやマゼンタなどの色が見える状態です。
たとえばCMYK複数色を使って黒文字を作っている場合、それぞれの色版がわずかにずれると、文字の輪郭から赤や青のような色がはみ出して見えることがあります。
写真の輪郭がぼやけて見える
写真で見当ズレが起こると、人物や建物などの輪郭にシアンやマゼンタなどの色ズレが現れることがあります。
その結果、写真全体が少しぼやけたように感じられたり、輪郭のシャープさが失われたりすることがあります。
色の境界に白い隙間ができる
異なる色同士をぴったり隣接させたデザインでは、版ズレによって境界部分に紙の白が見えることがあります。
たとえば赤と青を隙間なく隣り合わせに配置していても、どちらかの色版がわずかにずれることで、間に細い白い線が現れる可能性があります。
これは版ズレの代表的な症状のひとつです。
版ズレを確認するレジストレーションマークとは
印刷物の製版データには、十字や円を組み合わせたようなマークが配置されることがあります。
これを「レジストレーションマーク」や「見当マーク」と呼びます。
各色の位置を確認するために使う
レジストレーションマークは、CMYKなど各色の版に同じ位置で出力されます。
各色が正しく重なっていれば、マークもきれいに一致します。
反対に、どれかの版がずれていると、マークの周囲にシアンやマゼンタなどの色が分離して見えます。
現在の印刷機では、自動見当制御システムによって位置を調整する場合もあります。
版ズレを目立ちにくくするトラッピングとは
版ズレ対策として使われる代表的な処理が「トラッピング」です。
隣り合う色をわずかに重ねる処理
トラッピングとは、隣接する異なる色をわずかに重ねておき、多少の版ズレが起きても紙の白が見えにくくする処理です。
色同士を完全に突き合わせるだけの場合、少し位置がずれるだけで白い隙間が生じる可能性があります。
そこで境界部分にごく小さな重なりを作り、見当ズレを目立ちにくくします。
スプレッドとチョーク
トラッピングには「スプレッド」と「チョーク」という方法があります。
スプレッドは、一般的に明るい色のオブジェクトを暗い背景側へわずかに広げる方法です。
一方、チョークは、明るい背景側を暗いオブジェクトの内側へ広げるような方法です。
どちらを使用するかは、色の組み合わせやデザインによって異なります。
トラッピングはすべての画像に必要なわけではない
トラッピングは、主にベタ色など異なる色領域の境界で使用されます。
写真などの連続階調画像に対して、必ずトラッピングを行うわけではありません。
また、トラッピング量を大きくしすぎると、境界に不自然な線や色が見えることがあります。
そのため、印刷会社やRIP側で処理する場合も多く、入稿先の仕様に従うことが重要です。
参考サイト
オーバープリントと版ズレの関係
版ズレを理解するうえでは「オーバープリント」も重要です。
オーバープリントとは
通常、上に配置したオブジェクトの部分では、下にある色を抜いて印刷する「ノックアウト」が行われます。
一方、オーバープリントでは下の色を抜かず、その上から別のインキを重ねて印刷します。
黒文字では版ズレ対策になることがある
小さな黒文字などでは、適切にオーバープリントすることで、版ズレによる白い隙間を目立ちにくくできます。
特にK100%の黒文字は、印刷データ制作でよく利用される方法です。
すべての色で使えばよいわけではない
オーバープリントを設定すると、下地の色と上の色が重なって印刷されます。
たとえばシアンの上にマゼンタをオーバープリントすれば、重なった部分は紫系の色になります。
そのため、黒以外のオブジェクトへ安易にオーバープリントを設定すると、意図しない色になる可能性があります。
黒だからといって、すべてのオブジェクトに無条件でオーバープリントを設定すればよいわけでもありません。
小さな黒文字ではK100%が使われる理由
版ズレ対策として重要なのが、黒文字の作り方です。
K100%は1色で文字を形成できる
たとえば、
C:0%
M:0%
Y:0%
K:100%
で作られた黒は、一般的に「K100%」と呼ばれます。
文字そのものをブラック1色で形成するため、CMYK複数色を使った黒に比べて、色版同士のズレによる色フリンジが発生しにくくなります。
ただし、「K100%なら版ズレそのものが起こらない」という意味ではありません。
正確には、複数色の見当ズレによる影響を受けにくいということです。
リッチブラックとは
複数のCMYKインキを組み合わせて作る深みのある黒を「リッチブラック」と呼びます。
広い黒ベタなどに向いている
K100%だけでは、用紙や印刷条件によって黒が少し薄く見えることがあります。
そこで広い黒ベタなどでは、KにC・M・Yを加えたリッチブラックが使われることがあります。
小さな文字や細線には注意する
リッチブラックは複数の色版を重ねて作るため、小さな文字や細い線で版ズレが発生すると、輪郭に色が見えやすくなります。
そのため、一般的には小さな黒文字や細線にはK100%を使用し、大きな黒ベタには印刷会社が推奨するリッチブラックを使い分けることがあります。
リッチブラックの具体的なCMYK値は印刷会社によって異なるため、入稿ガイドを確認することが重要です。
特色印刷でも版ズレは起こるのか
特色印刷でも、複数の版を使えば版ズレは起こる可能性があります。
特色1色だけなら色版同士のズレはない
特色1色のみを1版で印刷する場合、その1色の内部では色版同士の版ズレは発生しません。
ただし、紙そのものの位置ズレや後加工との位置ズレなど、別の意味での位置ズレは起こる可能性があります。
複数の特色やCMYKと組み合わせる場合は注意
特色+ブラック、特色2色、特色+CMYKなど、複数の版を使用する場合は、それぞれの版の位置関係があるため見当ズレが発生する可能性があります。
デジタル印刷でも版ズレは起こるのか
デジタル印刷では、オフセット印刷のような物理的な刷版を使用しない方式が一般的です。
そのため厳密には「版そのものがずれる」という意味ではありません。
しかし、CMYKなど各色の画像形成位置にズレが生じることで、結果として色の輪郭がずれて見える場合があります。
このような現象は「色ズレ」や「レジストレーションずれ」と表現されることもあります。
つまり、デジタル印刷だからといって、色同士の位置ズレが絶対に起こらないわけではありません。
版ズレが目立ちやすいデザイン
版ズレは、デザインによって目立ちやすさが大きく変わります。
CMYKを掛け合わせた小さな文字
小さな文字をCMYK複数色で作ると、わずかな版ズレでも輪郭から別の色が見えやすくなります。
特に小さな黒文字では注意が必要です。
複数色で構成した細い線
細い線を複数の色版で作ると、各色が少しずれるだけで線が二重に見えたり、色が分離して見えたりすることがあります。
異なる色を完全に突き合わせたデザイン
異なる色同士を隙間なく隣接させたデザインでは、見当ズレによって境界に白い線が見える可能性があります。
小さな白抜き文字
CMYK複数色で作られた濃い背景の上に小さな白抜き文字を配置すると、背景側の色版がずれることで、白文字の輪郭に色が侵入して見えることがあります。
印刷データ制作側でできる版ズレ対策
版ズレそのものをデータ制作だけで完全に防ぐことはできません。
しかし、版ズレが発生した場合でも目立ちにくいデータを作ることはできます。
小さな黒文字はK100%を基本にする
本文や注釈などの小さな黒文字では、不必要にCMYK4色を使わず、K100%を基本とすると版ズレによる色ズレを抑えやすくなります。
極端に細い多色線を避ける
複数色を使った極細線は、見当ズレの影響を受けやすくなります。
印刷会社が推奨する最小線幅も確認しておくと安心です。
小さすぎる白抜き文字を避ける
濃い多色背景に非常に小さな白文字を配置すると、版ズレやインキの影響によって文字がつぶれたり、読みづらくなったりする可能性があります。
トラッピングやオーバープリントを自己判断で乱用しない
トラッピングやオーバープリントは版ズレ対策として有効ですが、設定を誤ると意図しない印刷結果になる可能性があります。
印刷会社側で自動的に処理されるケースもあるため、入稿先のガイドラインを確認してから設定することが重要です。
版ズレは何mmまでなら問題ないのか
版ズレには、すべての印刷物に共通する一律の許容値があるわけではありません。
許容されるズレの大きさは、印刷方式や印刷機、用紙、製品サイズ、用途、印刷会社の品質基準などによって異なります。
そのため、
「0.1mmなら必ず問題ない」
「0.2mmを超えたら必ず不良」
と一律に判断することはできません。
特にパッケージ印刷や精密な印刷物などでは、一般的なチラシや冊子より厳しい見当精度が求められる場合があります。
わずかな版ズレは必ずしも印刷不良ではない
印刷は物理的な工程であるため、完全に誤差をゼロにすることは困難です。
そのため、ごくわずかな版ズレが存在するだけで、必ずしも印刷不良になるわけではありません。
重要なのは、印刷会社や製品ごとに設定された許容範囲に収まっているかどうかです。
肉眼ではっきり色ズレが見える、文字が読みにくい、白い隙間が目立つなど、品質や可読性へ影響する場合には問題になる可能性があります。
まとめ
印刷の版ズレとは、CMYKや特色など複数の色を重ねて印刷するときに、それぞれの色の位置がずれてしまう現象です。
版ズレが起こると、文字や写真の輪郭に別の色が見えたり、隣り合う色の間に白い隙間が現れたりすることがあります。
原因には、印刷機の機械的な誤差、紙の伸縮、紙送り、版の取り付けなど、さまざまな要素があります。
印刷現場では見当調整を行い、データや製版工程ではトラッピングやオーバープリントなどを利用して、版ズレを目立ちにくくすることがあります。
データ制作側では、小さな黒文字をK100%で作る、極端に細い多色線を避ける、小さすぎる白抜き文字を避けるといった対策が有効です。
ただし、印刷方式や設備によって適切な設定は異なるため、最終的には利用する印刷会社の入稿ガイドラインや推奨設定を確認することが重要です。
以上、印刷の版ズレについてでした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
